シニア犬になると急に歩けなくなる、突然倒れるなどの症状が現れることがあります。
この症状は、三半規管は前庭神経とつながっており、この前庭神経に疾患があるからかもしれません。
1.犬の前庭疾患とは
犬が体のバランスを正しく保つ、真っ直ぐに歩くことが出来るのは、平衡感覚を司る器官が正しく働いているからです。
耳の奥にある三半規管や前庭は、脳の平衡感覚の中枢とつながっていて、体がどこを向いているか・どのくらい傾いているのか常に察知しています。
これらの平衡感覚を司る器官を「前庭系」と呼びます。
前庭に異常が起きると、正しい体の位置情報を脳に伝達しにくくなり、平衡感覚を失ってしまうことを「前庭疾患」といいます。
前庭疾患は3つに分類されます
末梢性
内耳やそこにつながる前庭神経の障害によって起こります。
感染による中耳炎・内耳炎・前庭神経炎・異物・腫瘤・甲状腺機能低下症などが主な原因
犬の甲状腺機能低下症 参考にしてください。
中枢性
小脳や延髄にある前庭系の中枢に障害が発生することで、起こります。
脳梗塞・脳出血・脳脊髄炎・頭部の外傷・脳腫瘍・中毒・ビタミンB1欠乏などが原因
突発性
原因となる病気が特定できない前庭疾患です。
突発性前庭症候群と呼ばれ、高齢犬に比較的多くみられます。
*シニア犬は突発性前庭症候群を起こしやすいので、常に状態を見ていてください。
2.犬の前庭疾患の症状
主な前庭疾患の症状
・斜頸
・眼振
・旋回
・倒れる、横転する
・食欲不振
・よだれを大量に垂らす
・嘔吐
・延期消失
など
斜頸
片方の耳を地面に向けるような形で、首をひねった姿勢をします。(一方の目の高さが低くなる)
末梢性前庭疾患の場合は、障害のある方の耳が下に向きます。
眼振
自分の意志とは関係なく、眼球が一定方向に小刻みに往復運動をする症状です。
地面に対して水平方向の眼振・垂直方向の眼振・眼球が回転するような眼振があります。
垂直方向の眼振は、通常は中枢性前庭疾患の場合だけにみられる症状です。
運動失調
平衡感覚が失われてしまうので、真っ直ぐに歩くことが困難になります。
左右どちらかに倒れこんだり、重度の場合は立つことも困難で寝返りを打つようにグルグル回り続けることもあります。
旋回運動
一定方向に円を描くように歩き回り続けます。
嘔吐・食欲不振
人で言うと「めまい」に近い症状が続き、吐き気や食欲不振になります。
3.犬の前庭疾患の治療
末梢性前庭疾患
耳に異常がみつかったときは、投薬や手術で原因の病気の治療をします。
内耳炎や中耳炎は一般では投薬治療を行いますが、前庭疾患の症状が重い場合は後遺症が残ることもあるので、手術を進められることがあります。
中枢性前庭疾患
脳に異常がみつかり脳腫瘍の場合は、手術で腫瘍を取り除く必要がありますが、平衡感覚を司る脳幹は脳の中心にあり、手術は非常に難しいので積極的治療を希望しないときは、今現れている症状を和らげる対症療法をします。
脳梗塞などの場合も、これといった治療法がないため対症療法をすることがほとんどです。
突発性前庭疾患
シニア犬に多くみられる突発性前庭疾患は、検査しても異常がみつからないため原因の特定ができません。
投薬などで症状を抑えながらの対症療法となります。
対症療法
前庭疾患は耳の奥に異常があるケース以外、対症療法が多い病気です。
前庭疾患は、安静にすることが大切なので動き回るようなら鎮静剤を投与したり、食事が取れないようなら栄養剤の投与をして様子をみます。
脳に炎症が起きている場合は、炎症を抑えるステロイド薬を投与することもあります。
自宅で安静にできない場合は、獣医師と相談して数日間の入院や治療法を決めてください。
4.犬の前庭疾患のケア
症状が軽度であれば数日~数週間のうちに改善され、今までの生活を送ることができます。
ただし、重度ですと後遺症が残ることが少なくありません。
食欲が戻らない・斜頸(首がねじれた状態)が残る・そのまま寝たきりになるなどの後遺症が出ます。
脳腫瘍の場合は、完治されるかで経過が決まります。
積極的治療を希望しない場合は、少しずつ症状が悪化していきます。
前庭疾患は安静にさせておく必要がありますが、高齢犬は動かないままの状態が続くと、あっという間に寝たきりになってしまうことがあります。
愛犬の症状が落ち着いてきたら、無理のない範囲で刺激を与えます。
外に出して草の匂いを嗅いだり、太陽の温もりや風を感じることなども刺激になります。
可能であれば抱っこやカートなどで、静かな公園や芝生の上などに降ろしてあげるのもいいでしょう。
嘔吐などがないようでしたら、なるべく愛犬を歩かせるように飼い主さんがサポートして転倒などしないように、介護用ハーネスなどを活用してみましょう。
5.まとめ
前庭疾患は、思っているより多い病気です。
どの犬種でもなる病気ですし、高齢犬には前庭疾患は多いので寝たきりにならないように、しっかりと刺激を与えながら自分で歩ける楽しさを長く味合わせてあげたいものです。
犬の外耳炎も参考にしてください