近年は、猫も平均寿命が長くなってきています。
しかし私たち人間と同じように、猫も癌を患うことが多くなり、猫の癌の中でも多くみられるのがリンパ腫です。
1.猫のリンパ腫とは
リンパ腫とは、リンパ系細胞が骨髄以外のリンパ器官等の組織を原発とする、腫瘍疾患です。
リンパ腫は、体の中にある白血球の一種であるリンパ球が癌化することで発症する、猫に最も多くみられる腫瘍のひとつです。
リンパ球は免疫に関わる細胞で、体内で細胞やウイルスなどの侵入を阻止したり、攻撃したりする働きをします。
リンパ球は、体のいろいろなところに分布していて、リンパ節というリンパ球が集まった組織も形成しています。
リンパ腫の発生部によって前縦隔型「ぜんじゅうかくかた」・消化器型・多中心型・節外型(中枢神経系・腎臓・皮膚・鼻腔・眼)に分類されます。
2.猫のリンパ腫の種類
消化器型リンパ腫
腸にできるリンパ腫で、猫のリンパ腫の中で最も多くみられます。
胃・小腸・大腸に発生し、胃腸管にしみ込むように腫瘍細胞が広がる・腸腔内にあるリンパ節が腫れたりします。
特に小腸や腸間膜での発症が多く、嘔吐や下痢・元気喪失・食欲不振・体重の減少などの症状がみられます。
消化型には悪性度の低いタイプと悪性度が高いタイプがあり、悪性度が低いタイプの場合は数カ月間慢性的な症状が続き、ゆっくりと症状が悪化していきます。
悪性度が高いタイプは数日から数週間で、比較的に強い症状が急に現れる傾向にあり、早く進行します。
10歳以上の猫に多く、猫白血病ウイルス感染症(FeLV)の陽性率は30%くらいと低いです。
縦隔型リンパ腫
胸の中の縦隔と呼ばれる場所(食堂・気管・心臓・血管・胸腺・・神経・肺など)にリンパ腫が起きるタイプのリンパ腫です。
犬より猫に多く、若い猫に多いといわれます。
若齢に多い縦隔型リンパ腫の80%の猫が、猫白血病ウイルス感染(FeLV)に感染しているといわれます。
呼吸困難・咳・胸に水がたまるなどの症状があり、口を開けて呼吸している場合は重症化している可能性があります。
多中心型リンパ腫
身体の中にはたくさんのリンパ節がありますが、基本的には身体の表面にあるリンパ節が腫れるのが多中心型リンパ腫です。
犬のリンパ腫の約80%が多中心型リンパ腫ですが、猫の場合はあまり多くはありません。
若齢の猫に多く、猫の身体を触ると顎や肩・脇や股などのリンパ節が腫れて、硬くなっているときがあります。
猫白血病ウイルス感染症(FeLV)の陽性率が高いのが特徴です。
鼻腔リンパ腫
鼻腔リンパ腫は、鼻の中にリンパ腫ができます。
腫瘍は鼻の中の構造を破壊し症状が現れ、くしゃみ・鼻水・鼻血を出し腫瘍が大きくなると顔の腫れや変形もみられます。
さらに進行すると、脳の中に腫瘍が入り込み発作などの神経症状を起こすこともあります。
ほかのリンパ節や腎臓・血液など別の場所に、転移することがあります。
高齢の猫に多くみられますが、2~3歳の若齢猫でも発症することもあります。
腎臓型リンパ腫
腎臓にリンパ腫ができ、進行するまで症状が出ない場合もあります。
お腹を触ったときに、腫瘍化して大きくなった腎臓を手で感じて、初めて異常に気付く場合もあります。
高齢猫に多く発症しますが、まれに若齢猫でもみられます。
中枢神経系リンパ腫
脳や脊髄の神経にリンパ腫ができることがあります。
猫のリンパ腫全体の中ではそれほど多くないものの、猫の脳腫瘍や脊髄腫瘍の中では多く見られる腫瘍です。
*リンパ腫は、肝臓・脾臓・気管・喉・眼球内・皮膚などと、さまざまな部位でリンパ腫が発生します。
猫白血病ウイルス感染症(FeLV)について、参考にしてください。
3.猫のリンパ腫のグレード
リンパ球はB細胞とT細胞に分けることができます。
典型的には、T細胞性リンパ腫の方が、B細胞性リンパ腫と比べて悪いことが多いです。
リンパ腫の大半はグレードの高・中・低に分類され、このグレードにより抗がん剤の種類や余命が変ります。
・ステージ1
単一のリンパ節、または骨髄を除く単一臓器に局在
・ステージ2
単一部位の複数リンパ節に病変が存在
・ステージ3
全身のリンパ節に病変が存在
・ステージ4
肝臓または脾臓に病変が存在
・ステージ5
末梢血液中・骨髄中に腫瘍細胞が存在
4.B細胞とT細胞の違い
B細胞とT細胞は共にリンパ球の一種で、リンパ液の中に存在して全身を巡りながら、免疫対応を担う細胞です。
B細胞
B細胞は骨髄で作られ、B細胞のBはBone(骨)のBなのです。
「B細胞は抗体を生産する」といわれ、B細胞は抗体を体液中に放出して外敵を攻撃します。
これが体液性免疫といわれます。
T細胞
T細胞は胸腺で作られ、T細胞のTはThymus(胸腺)のTなのです。
「T細胞は抗体を生産しない」といわれ、細胞を攻撃するT細胞はキラーT細胞と呼ばれます。
キラーT細胞は細胞性免疫で、細胞が直接非自己細胞をみつけて攻撃します。
またT細胞にはもう一種類あり、ヘルパーT細胞という細胞はB細胞とキラーT細胞を活性化させる働きがあります。
5.まとめ
リンパ腫の治療法は、化学療法(抗がん剤)・外科療法・放射線治療があります。
全身疾患になるため、治療の中心となるのは化学療法ですが、皮膚型リンパ腫の孤立性がある場合は外科療法や硬膜外・縦隔・鼻腔などの局所性のリンパ腫には、放射線治療を進められることがあります。
獣医師とよく相談をして、治療法を決めてください。